2012年7月15日日曜日

3・11以降の政治状況②

被災地ルポ 目に見えない恐怖と風評被害
東京スポーツ「永田町ワイドショー」2011年4月6日号(ゲラ刷)

福島第一原発事故から3週間が過ぎた。放射能漏れとの戦いは長期戦の様相である。目に見えない恐怖は、なおも被災地住民の暮らしに重くのしかかったままだ。風評被害はその最たるものだろう。
自主避難30キロ圏のギリギリに位置する福島県いわき市は沿岸部の家屋がほぼ壊滅した。252人の犠牲者を出し、約4000人が一時、避難生活を送っていたが、徐々にだが復旧に向けて動き出していた。
だが、閉店に追い込まれた地元スーパーの店長は
「近く別の場所に新規オープンする予定です。品不足はないが、事故直後、東電や協力会社の社員が家族を一斉に避難させたと噂が広まり、地元産に誰も手を付けなくなった」と言う。
持参した放射線計測器は0.8マイクロシーベルト。地元産の生鮮食料品が健康に影響を及ぼすような数字ではない。
風評被害が増幅されれば、経済活動を萎縮させて被災地の復旧、復興の足を引っ張ることになりかねない。とりわけ大消費地・東京の買い控えは致命的だ。
市の南部、茨城県境には東洋一を誇るトマト栽培のハウスがある。年間生産量3000トン、耕地面積100ヘクタールの巨大ハウスは、さながらトマト工場の異様である。出荷先は大手食品メーカーを通じて関東一円に及ぶが、被災後、取引停止となり栽培中の4分の3を廃棄した。
さらに福島第一原発から西に100キロ。「喜多方ラーメン」発祥の地、福島県喜多方市の放射線量は0・1マイクロシーベルト前後だった。東京と大差ない数字だが、製麺会社の幹部が言う。
「ウチは東京、喜多方の2カ所に工場がありますが、取引先からは事故後、喜多方からの出荷を拒否されたままです」
 こうなると、過剰反応も度が過ぎる。 
 土壌汚染が深刻だと喧伝される県北部、30キロ圏の飯舘村長泥地区にも足を運んでみた。警察官数人が防御服姿で物々しく放射能を測定していたが、福島第一原発からの風をまともに受ける山頂部分でも最高で20マイクロシーベルトを超えることはなかった。それでも、出荷禁止のほうれん草やタラの芽以外の農作物に買い手がなければ、廃棄せざるを得ない。一方で隣接する川俣町の直販所ではこれも風評被害が甚大な茨城産のレタスが山積みされていた。
 もとより、風評被害は政府、東京電力の事故対応の混乱がもたらした人災だが、ネット上を飛び交う未確認情報が火に油を注ぐ。消費者の冷静な判断が求められるところだ。

2011.4.4 築地にて



国民の信を失った菅首相の悪あがき
東京スポーツ「永田町ワイドショー」2011年4月13日号(ゲラ刷)

 10日投開票の統一地方選前半戦で民主党が大敗したことで、自民、公明両党との大連立に活路を求めた菅直人首相の政権戦略は完全に行き詰まってしまった。
自民党の谷垣禎一総裁は翌11日の記者会見で「東日本大震災対応への国民の不信が表れた。菅首相は国民の厳しい声にどう応えるか、自ら判断すべきだ」と述べ、首相の退陣を要求。公明党の山口那津男代表も同日の記者会見で「これまで震災への支援、復興、復旧に協力するということで批判は抑制してきたが、(菅首相は)事実上の不信任という結果を謙虚に受け止めて欲しい」と述べ、自公が揃って倒閣の構えを鮮明にした。
これに対して枝野幸男官房長官は同じ日の定例記者会見で「民主主義のルールに基づき首相が厳しい中で首相が厳しい職責を与えられている。菅内閣としては、その職責をしっかりはたすことに全力をあげるのが筋だし、責任だと思っている。野党の皆さんも、誰がではなくて、何をどうやるのかということで判断いただけると思う。ご理解頂けるような政策づくりを進めたい」と述べているが、菅首相が当事者能力を失っていることは、もはや誰の目にも明かだ。身を退くことが何より国益につながる。
震災発生から一ヶ月が過ぎたこの日、東日本大震災の復旧・復興計画の青写真を描く「復興構想会議」が発足した。菅首相は同会議の提言をもとに、自らを本部長とする全閣僚参加の「復興本部」で具体策をまとめる考えだ。官邸主導を演出したつもりだろう。
 だが、菅首相が直々に指名した同会議のメンバーを見れば、岩手、宮城、福島の被災地3県の知事が入っているのは当然だとしても、議長に就任にした五百旗頭真防衛大学校長の国際政治、御厨貴東大教授は日本政治史が専門の門外漢だ。これに元横綱審議会委員で脚本家の内舘牧子氏が加わり、唯一、専門家と呼べる建築家の安藤忠雄東大名誉教授にしても、打ちっ放しの美術館の建築を設計したことはあるが、都市計画は素人同然だ。このメンバーでいったい東北被災地のどんな未来が描けるというのか。
国民の信を失い、野党からもソッポを向かれてしまった今となって、悪あがきが過ぎるというものだ。

2011.4.11 築地にて


救い難い民主党内の菅下ろし
東京スポーツ「永田町ワイドショー」2011年4月15日号(ゲラ刷)

「第1は自然災害に強い地域社会、第2は地球環境と調和した社会システム、第3は弱い人に優しい社会だ」
被災地復興の将来像について菅直人首相は12日の記者会見でこう述べ、「被災地域、住民の要望、声を尊重」、「政界、官界に限らず全国民の英知を結集」、「未来の夢を先取りする未来志向」との三原則を示した上で、野党に対して先に発足した復興構想会議への参加を求めた。
 目指す方向に異論はないが、問題なのは復興の先頭に立つ菅首相の力量である。
同じ日、首相会見を受けて自民の大島理森副総裁が次のように述べている。
「始めからノーというつもりはないが、言葉だけでは進まない。事前にどのような責任と権限があるのか明確に説明し、協力できる環境をつくるのが首相のリーダーシップではないか。首相に本当政治に真摯に取り組む考えがあるのか疑念を持たざるを得ない。政権延命のにおいが消えていない。被災者が求めているのは、さまざま会議をつくって踊ることではなく、政治が安心と希望を示すことだ。パフォーマンス的政治をやっている暇はない」
 国民もきっと同じ思いだろう。ここまで不信感を持たれてしまったら、菅首相の下での挙国一致は難しい。 
 加えて、救いがたいのはこの国難に乗じて菅降ろしの政局を仕掛ける民主党の小沢一郎元代表支持グループの存在だ。
 小沢元代表は13日に行われた小沢支持グループの会合で「初動対応の遅れをはじめ、菅直人首相自身のリーダーシップが見えないままの無責任な内閣の対応は、今後、さらなる災禍を招きかねない」との見解を示した。事実上の倒閣宣言である。
 ところが前日には別の小沢支持グループとの会合で「右往左往している姿が国民に映っている。国民は国そのものが沈没してしまうような思いになってしまう、党内が一致結束し、国会議員を総動員するべきだ」と述べている。
 その党内の結束を乱してきた張本人が、よく言えたものだ。たとえ、菅首相が退陣したとしても、小沢支配の民主党では、国民の信は得られまい。
原発事故後の混乱と被災地復旧の遅れは、菅首相共々、すべての民主党議員が追うべき責任である。党内政局にうつつを抜かしている場合ではなかろう。挙国一致に身を投げ出すことだ。
2011.4.13 築地にて 


 恐怖を煽るより被爆の実態把握を急げ
 東京スポーツ「永田町ワイドショー」2012年4月20日号(ゲラ刷)
 
東京電力が17日、福島第一原発事故の収束に向けた工程表を発表した。原子炉の冷却に6~9ヵ月かかるそうだが、これまでの東電や政府の事故対応のお粗末さをみれば、とても額面通りには受け取れない。もっと長引くことも覚悟しておいた方がいいだろう。
事故レベルが5から7になった。かといって、今さら東電や政府のやること為すことを論い、怒りにまかせて批判しても事態が好転するわけではない。
一部のマスコミは借り物の知識を振り回して放射能漏れの恐怖を煽っている。この期に乗じて、反原発運動家もそれみたことかと大騒ぎだ。原発事故がチェルノブイリ級の放射能禍をもたらすとすれば、少なくとも半径200キロ圏内の子どもたちは将来にわたって甲状ガンの恐怖に怯えなければならない。幸いにもまだ、被爆した子どもがいるとは聞いていないが、ならば、いったい子どもたちをどこに避難させればいいのか。戯れ言である。
恐怖を煽る前にやるべきことは、被爆の実態を把握することではないのか。
原発反対を言うにもいいが、これも煽り派マスコミと五十歩百歩。節電もいいが、生産活動が停滞すれば、国民生活も滞る。代替エネルギーが必要だが、地球の温暖化とどう折り合いをつけるのか。クリーンエネルギーは遠い未来の理想でしかない。言い尽くされた議論である。
 それはさておき、この国家的危機に責任を追うべき政治の混乱はどうしたことか。何より、罪深いのは政権を支える立場の民主党内の菅降ろしの動きだ。
 「当初はチェルノブイリのような事故にはならないと言っていた事故が、結果的にレベル7にまでいった。首相は長期戦を覚悟して、事故処理に臨むと言ったが、福島県民は長期戦にされては困る。むやみに長期戦になるのであれば、即刻退陣をしていただきたい」 
15日の民主党代議士会で小沢グループの石原洋三郎衆院議員が公然と菅首相の退陣を要求。この非常時にまたかの党内政局である。
 政権与党内がこんな状況では挙国一致の震災復興は望むべくもない。自民、公明両党は18日、菅直人首相が協力を呼びかけている「復興実施本部」への参加を当面見送る方針を確認した。当然である。まずは震災復興に向け政権与党が一枚岩になることが先決だ。
2011.4.18 築地にて




 

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