2015年2月12日木曜日

安倍首相には他人事だった「イスラム国」人質事件

外務省はシリアへの渡航を計画していた新潟在住のフリーカメラマン・杉本祐一(58)の旅券を返納させた。渡航を自粛するよう再三求めたが聞き入れられず、やむを得ず渡航を阻止するため緊急避難的に邦人の生命、身体、財産の保護を目的とする旅券法19条の規定を適用したもの。

「ISIL(イスラム国)が日本人の殺害継続を表明しており、危険は明らかだ。2人殺傷の後ということで判断した。報道の自由は最大限尊重されるべきだが、邦人の安全確保も政府の役割であり、慎重に検討した」

 菅義偉官房長官は9日の記者会見でこう述べ、今後も同様の措置を取り得ることに含みを残した。

もとより移動の自由は憲法が保障するところだが、それ以前に杉本氏の渡航は一人エベレストの登頂を目指すようなもので、無謀としか言いようがない。報道カメラマンとして本気でシリア入りを考えていたかどうかも疑わしく、報道の自由を制限したい安倍官邸に介入の口実を与えてしまっただけのお粗末な話だ。

それにしても不可解なのは政府の対応である。安倍官邸は救出に失敗した後藤健二(47)さんに対しても渡航自粛を求めていたそうだが、湯川遥菜さん(42)が「イスラム国」に拉致監禁されていた事実を知っていたのであれば、今回と同様の措置を取る選択肢もあったはずだが、そうはしていない。

しかも渡航自粛を求めていた事実を安倍官邸が公にしたのは「イスラム国」が殺害動画を公開した後になってのことだ。邦人の安全確保が政府の役割であれば、もっと早くにこの事実を明らかにして広く国民に警鐘を鳴らすこともできたであろう。

読売新聞社が先週末に行った世論調査では政府が渡航しないように注意を呼び掛けている海外の危険な地域に行ってテロや事件に巻き込まれた場合、「最終的な責任は本人にある」とする意見に83%が賛同している。自己責任論を否定するものではないが、後藤さんが危険を承知で渡航したことの是非と救出に失敗した政府の責任とは別けて考えるべきだ。

 だからだろう、同じ世論調査で人質事件への政府対応を「適切だ」とする人は55%に止まっている。

 事件について政府は週内にも杉田和博官房副長官をトップとする「検証委員会」を設置して報告書をまとめるが、検証対象となるのは湯川さんと後藤さんの殺害予告動画が公開された1月20日以降に絞りたいとしている。なぜ、それ以前に遡って検証しないのか。  

昨年12月3日、「イスラム国」から20億円の身代金要求メールが後藤夫人に送り付けている。報告を受けた安倍晋三首相がその事の重大性について「認識していなかった」とは官邸スタッフの証言である。

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